山道の、トワる喫茶店で。

冷たく透き通った空気が一瞬のうちに頭上を通り過ぎ、つい先ほどまで見ていた空の景色も、すぐに新しい記憶へと変わってしまう。

みなみしまばらにも本格的な冬がやってきた。

近頃は、みなみしまばらを撮影でまわる機会が多く、今まで知ることがなかった景色や場所など沢山の事柄に気がつくことができる。

そんな撮影の合間に偶然立ち寄った山道の喫茶店。その素晴らしさに、久しぶりに不思議な感覚にとらわれた。

必要以上に大きい「営業中」の看板。手書きで書かれた赤い文字は、時間の経過とともに掠れてしまったのだろう。

箒で店先を掃除する上品な女性に会釈をし店内へと入った。

正面には6名ほどが座ることのできるカウンターと、年季の入ったしかしとても綺麗に手入れのされたサイフォン。

かすかに聞こえるラジオからは、その場所に似つかわしくないポップな音楽が流れていた。久しぶりに訪れた客に合わせてくれているのだろうか。

そんなことを考えながら店の奥に目を向けると、そこには一瞬で心を奪われるほどの風景が広がっていた。

外観からは想像ができなかったレトロな空間。時代を感じさせる小さめの椅子と机。着席するとよく膝がぶつかってしまうが、それが何故か嬉しい。

1ページのみのメニューには、コーヒーやレモンスカッシュなどの喫茶店ならではの飲み物から、ホットサンドやトーストなどの軽食、カレーやハンバーグなどのしっかりとした食事も。

私たちはそれぞれ「チキンライス」と「スパゲティナポリタン」を注文した。

正直な話をすると、料理にはさほど期待していなかったのだが。

(写真はチキンライス)

カレーライスの皿に盛られたチキンライスとサラダとデザートのキウィ。福神漬けが何気に嬉しかった。一口食べてその本格的な味に驚いた。どこか洋食屋さんでしっかりと修行をされたのだろうと思う。ただケチャップで炒めたものではなく、何かソースのような酸味と香りがして、一瞬で食べてしまった。

個人的には、この先割れスプーンのデザインが気に入った。

(スパゲティナポリタン)

友人が注文したナポリタンも、とても綺麗で美味しそうだった。ちょっとしたトラブルがあり時間がかかってしまったが、かなり美味しかったらしく、すぐに無くなっていた。

食後に店側からのご好意でコーヒーをいただいた。このコーヒーも想像以上というのは失礼だが、本当に美味しかった。

店内のいたるところに、時代を感じさせてくれる食器や装飾が多く、この喫茶店が流行っていた頃の空気を感じさせてくれる。

その当時は今のようにインターネットなどを使って「オシャレ」を参考にすることが難しい。あくまでも想像だが、ご夫婦で話し合い、どうやったらお客様が喜んでくれる空間ができるのかを作り上げたのだろうと思う。そこに、片方の意見が少々強く出ていてもそれは大した問題では無く、そこには唯一無二の空間があるだけ。

最近の所謂「カフェ」は海外の話題のスタイルをそのまま使用していたり、デザインの流れに大きな変化が無いため、どうしても同じような空間になってしまっている気がする。

やはり人は一生懸命考えることで、自分の世界を表現すべきだと思う。そこには「何の為に」というメッセージが明確に現れるからだ。

この喫茶店に流れる空気や音、窓からの風景も料理の味も、お店の方の人柄も。その全てがこの素敵な時間の元になる。

久しぶりに、感じた不思議な感覚は、そうやって自然に生み出されたものなのだろう。

そんな場所が、みなみしまばらにはあります。